大会運営者が誤用しがちな
3つの「ホショウ」と3つの「ショウガイ」

オリエンティア Advent Carender 2022(裏物)5日目

札幌オリエンテーリングクラブ
雑用係 山田 健一

下記は過去のイベントアドバイザー講習会の提出レポートを手直ししたものですが、せっかく設定いただいた裏アドベントカレンダーに穴が空くのは勿体ないので駄文を掲載させていただきます。お堅い内容写真なしで面白い話ではないので多くの読者にとってはハズレの日となりますがご容赦下さい。私にもこういうまじめな文章だって書けるのですよというアピールになれば・・。

大会要綱やプログラムを読むと結構な割合で「ホショウ」と「ショウガイ」の漢字誤用が目に付きます。うーん、日本語って難しい。また、保険商品でいうところの「傷害保険」と「賠償保険」の違いを全く理解されていないと見受けられることもあります。私もオリエン渡世に身を投じて長いのですが損保業界をカタギの生業としておりますので、ここでちょっとまとめてみることにしましょう。

3つの「ホショウ」

1.「保証」 
英語でいう「guarantee, warranty」のことです。「保証書」「保証人」等の将来にわたって結果や行為に責任を持つという意味合いがある言葉なので要綱やプログラムに使うことはないですね。強いて使うなら、「この大会、テレインは絶対に面白いって保証するから・・」と大会の宣伝文句に使うぐらいでしょうか。今年8月の第27回大会(ニナルカ)では使いまくったよ。

2.「保障」
英語でいう「security, guarantee, underwrite」です。「安全保障」「生活を保障」「社会保障」などといった使い方をしますね。若干1.でいう保証と重なりますが、オリエンテーリング大会ではあまり使われることないでしょうね。

3.「補償」
英語では「compensation」というらしいですが、頭の弱いワタクシそんな単語聞いたことも使った覚えもありません。でも、運営ではこの補償が一番重要な意味合いを持ちますよね。読んで字の如く「おぎない、つぐなう」ので自分が他人に対して賠償する(その逆もしかり)、保険で補償を受ける等、自分と他者との間において金銭責任を果たし合うといった意味合いが強い言葉だと思います

3つの「ショウガイ」

1.「障害」
要綱やプログラムで「傷害」と間違って使用されることが目立ちます。後遺障害を負った、通信障害が発生してスマホ繋がらない、地主を怒らせて渉外に障害が発生している、なんて使い方がされるでしょうか? いずれにしても本来は要綱やプログラム上で出てくる言葉ではないよね。

2.「渉外」
大会を開催するには渉外活動が重要ですよね。ご苦労様です。さすがにオリエンティアがこの漢字を誤用することはないか。
ボヤキですが、今年の大会1日目と2日目の会場が別だったため渉外が本当に面倒くさかったです。1日目のメロン会場は地域のお葬式最優先でご不幸があると大会前日にドタキャン喰らう可能性もあったのでバックアップで近くの公園を青空会場とする手配も整えていたのですよ。

3.「傷害」
「この大会は傷害保険に加入していますが補償額には限りがあります」これがプログラム上では鉄板な使われ方ですね。
読んで字の如く「キズつきガイする」すなわち怪我しちゃうんですね。具体的には怪我して外科や整形外科を受診すると傷害事故として傷害保険で補償を受けることができます。
「急激・偶然・外来」の三要素を満たすことが損害保険の基本的な支払要件。

飛び出してきて車とぶつかって傷害負ってもシカは補償してくれない

※大会運営における「傷害保険」と「賠償保険」

これ、結構多くの方が誤用していたり理解できてなかったりします。
「傷害」は上記に述べたとおりですが、「賠償」というのは第三者に対して責任を果たすものであって傷害と賠償は全く違う意味合いです。

傷害保険

傷害保険は自分のために、もしくは大会主催者が福利厚生的な意味合いで怪我した参加者にお見舞い金を給付するために、といった目的のために付保する保険商品です。(市区町村等の後援名義使用申請の条件にされている場合もある)
ケガして病院行ったら1日につき~円の給付となります。(90日限度)

余談ですが、足首を捻挫してだらだら整骨院に通いながら給付日数を稼ぐ一方、しっかり毎週の大会には参加しているグレーな保険金請求してた人過去にいたけど、ちゃんとチェックしてるからね。
主に「レクリエーション傷害保険(通称:レク傷)」という名前の保険料が安い傷害保険商品に主催者が加入するケースが多いかと思います。危険度に応じた行事別料率ランク表というのがあってオリエンテーリングはなぜか一番料率の安いAランク。ちなみにスキーを履いた途端自動的に一番高いCランクになるのでスキーOの保険料はフットの約10倍。ロゲイニングはシティでもフォトでもガチでも引受不可。OMM? とんでもない。「筆記試験」とか「ふくわらい」なんて行事もリストにあるけど、保険ニーズあるのかな?

オリエンティアの端くれとしてはこの危険料率区分実態に合ってないと思うけど、余計なこと言うと自らの首絞めることになりかねないのでここは口を噤みます。思うに保険業界ではオリエンテーリングというのは昭和時代の徒歩OLのように昼食ポストでみんなで弁当広げてクレヨンチェックといったレクリエーションに近い認識のままだからなんでしょうけど、一部会社では倒木や木々の枝によるケガが想定される野外行事は引受不可とアナウンスされているので段々と引受が厳しくなっていくのでしょうね。
あまり保険請求が増えて損害率の悪いスポーツだと認識されるようになると本当に引受不可になりかねないのでみなさんケガしないようにね。(レク傷でなく保険料の高い商品での引受になってしまう)
ちなみに私は今まで熊笹の茎を目に刺したのと肉離れの2回、自分で加入している傷害保険請求をしたことがあります。

賠償保険

賠償保険は参加者個人レベルの観点からすると、一例として公園内スプリント競技で子供とぶつかって怪我をさせてしまい、病院代や慰謝料請求を受けて賠償しなくてはならないといった時の補償に役立つ商品です。自動車保険でいえば対人賠償・対物賠償なんかでよく使われる文言ですね。自動車保険・火災保険・傷害保険のおまけ(個人賠償特約、日常生活賠償特約等の商品名)として一世帯にひとつだけ付保しておけば同居家族全員が補償対象となります。賃貸アパートに入居していて火災保険に加入していたらほぼ特約で付保されているはず。大会だけでなく自転車で人とぶつかった等も対象になります。特約保険料は年間2~3千円程度なのでオリエンティアなら絶対に準備しておくべき。

大会運営者としての観点では、大会運営者が運営中に起きた事故で第三者から損害賠償を求められたり、主催者としての運営判断を誤った結果、極論ですが参加者が死に至り遺族から賠償を求められた際などに適用となる保険です。

例1 参加者が墓石を倒して逃げたのが明白で、後日主催者宛に地元所有者から修繕弁償請求された。
(本来であれば加害者と被害者との関係だが、参加者が逃げて不明なため主催者責任を追及された)

例2 危険が容易に予想できる気象下にも関わらず大会開催を強行し、救護体制もお粗末で参加者が死亡した。
(参加者自己責任といえど運営者にだって過失責任あるでしょと遺族に訴えられた)

実際の補償有無責判断はケースバイケースとなりますが「不法行為により法律上の賠償責任が発生すること」が補償要件です。(裁判内外を問わず)

JOAは行事賠償保険(商品上の正式名称は施設賠償保険)というのに加入しており、主催大会や公認大会は自動的に補償担保される契約になっていますが、草大会であっても都道府県協会経由にてメール一本で適用行事にできるので運営者は事前にJOA事務局にお願いして補償対象大会に含めてもらうことをお勧めします(特に公園系行事)。運営者が自らを守るためにも、もっと活用された方がいいと思うし、然るべきコストも各々負担すべきでしょう。

実例として過去に民有地の手すり?を参加者が破壊したらしく、地主から修理弁済を求められた時に保険請求したのが唯一の適用例だと上尾の親分から聞いたことがあります。

ちなみにレンタル品の賠償は免責(例、小学校から借りたテントを強風で壊して弁済、Eカード紛失してEMIT協会に弁償、等)で他にも免責事項は多いので、何でも賠償保険適用になると拡大解釈はしない方がいいです。

また余談ですけどね、知人のトライアスロン運営者に聞いた話で、過去に手がけた大会中スイムパートで溺死者を出してしまったのだそうです。どうして溺死してしまったのか、健康上の理由だったのか不明だし遺族からクレーム付いたわけでもなかったのですが、運営責任者として事故から半年間、事故調書作成のため毎週警察署に呼ばれて小一時間取り調べを受けたのだそうです。途中からは業務上過失致死に相当しないことを疎明するための取り調べだったようですが、救護体制といった安全管理に落ち度はなかったか、万一の際の補償体制(保険準備)は万全だったかといった内容だったそうです。

翻ってワタクシの運営する大会はいつも泥縄でクラブ員や参加者にも迷惑ばかりかけていることを反省するのですが、過去にフィニッシュ閉鎖時刻を過ぎても未帰還者2名の足取りがなかなか掴めない事案がありました。詳細は伏せますが、日暮れが迫る中警察に捜索願となったら、死亡事故という結末でなくとも運営責任者として業務上過失の疑いで任意同行待ったなしです。競技規則で決められているからと言って通信端末も持たせずに(安全対策もせずに)ヒグマ遭遇リスクの高い山中で競技を行ったあげく行政に助けを乞うこと自体世間一般的な観点では非常識ですからね。(毎年おなじみケータイ持たずに山菜採りで遭難して捜索されるニュース映像を想像してみてほしい) 今まで○○泥棒もしないで全うに生きてきたのに、こんなことで警察のご厄介になって取調室でカツ丼食うことになるのかと涙に暮れましたよ。

実力を伴わないのに最上位クラスに出場することを至上とする考えの方目に付きますけど、そんなことしてもオリエン上手くならないし、絶対に競技時間とフィニッシュ閉鎖時刻までの帰還は厳守してもらいたいです。身勝手な行動は運営者をリスクに晒す行為だということを認識してほしいし、おかしな新聞沙汰になったら大会の存続危機に繋がりかねません。

とりとめもなく書き殴りましたが、「ホショウ」や「ショウガイ」の漢字誤用が目立つのと、傷害保険と賠償保険の区別がついてないと思われる文面が多いので何かの機会にまとめて発表したいと思っていました。
次回ヒマと機会があれば地図の著作権と版権について思うところを考察してみたいですね。(誰か書いて)
駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

調査中出会ったかわいいキツネ(さわるべからず)